大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和25年(ネ)54号 判決

控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、被控訴代理人において、「原判決摘示の被控訴人主張の事実中原判決二枚目表七行目に、原告は同日とあるのは昭和二十一年十二月二十五日の趣旨である。被控訴人は本件農地の返還を受けた後昭和二十二年度の耕作期に際し被控訴人において耕作に着手せんとしたところ一迫町農地委員会から耕作を差控えるよう指示されたので耕作しなかつたのである。本件農地売渡処分に対しては被控訴人からその取消の訴を仙台地方裁判所に提起し同庁昭和二十四年(行)第五一号事件として現に係属中である。本件農地の買収計画及び売渡計画の各公告の日が控訴人主張のとおりであることは争わない。」と述べ、控訴代理人において、「本件農地についての被控訴人の転貸借解約許可申請書は一迫町農地委員会を経由して控訴人に提出されたのである。被控訴人居住地方に「ホマチ田」の慣習が行われていることは知らない。本件農地の実際の耕作者は鹿野勝治である。本件農地の買収計画公告の日は昭和二十二年六月十日、売渡計画公告の日は昭和二十四年二月二十五日である。被控訴人から本件農地の買受申込のあつたこと及び本件売渡処分に対し被控訴人からその取消の訴を仙台地方裁判所に提起し同庁昭和二十四年(行)第五一号事件として現に係属中であることはいずれもこれを争わない。」と述べたほか、原判決摘示事実と同じであるからこれを引用する。(証拠省略)

三、理  由

被控訴人が昭和二十二年三月十日控訴人に対し一迫町農地委員会を経由して別紙目録記載の本件田地に対する賃貸借解約許可申請をし、控訴人が同年十一月一日被控訴人に対し同農地委員会を経由して同年十月二十三日附不許可指令書を交付してその不許可処分をしたことは当事者間に争がない。

本件田地が東京都内に居住する菅原正規の所有で被控訴人がその管理人があつたことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第二号証の一、第七、八号証、原審証人北条清人、三塚林治、菅原直二、斎藤倫一の各証言原審及び当審証人千葉直一の証言の一部を綜合すると、被控訴人は菅原正規からその所有にかかる本件田地を含む約三町歩の田地の管理を委託され、その一部を菅原美雄等に小作させ一部を被控訴人自ら賃借小作していたが、本件田地については最初菅原美雄が小作していたところ被控訴人において昭和十三年その半分を昭和十五年残半分を菅原美雄から返還して貰い被控訴人自らこれを菅原正規から賃借小作してきたこと、その後被控訴人は昭和二十年度本件田地を大豆田金吾に転貸したが同年中にこれが返還を受けたこと、その後被控訴人は昭和二十一年一月鹿野寅男の父勝治の希望により寅男の代理人としてきた勝治との間に、寅男を雇傭期間一箇年、三食附、一箇年の賃金二千二百円の条件で雇入れることとしたこと、当時宮城県下殊に被控訴人居住の一迫町地方には農家で作男を雇入れるときにはその優遇条件として雇傭契約に附随して雇傭期間に限つて被傭者に「ホマチ田」と称し田地を賃貸小作させる古くからの慣習があつたのであるが、被控訴人は勝治の希望により当時特に右「ホマチ田」の慣習にならつて寅男の代理人勝治との間に本件田地を昭和二十一年度一箇年に限り前示雇傭契約に附随して寅男に一時転貸することとし勝治においてその保証人となつたこと、寅男は右約旨に従い被控訴人方において労働に従事し且本件田地を耕作してきたのであるが、当時同地方の慣習によると一箇年の雇傭契約は十二月二十五日をもつて終了するので、被控訴人は昭和二十一年十二月二十五日自宅に寅男を招き一年間の労をねぎらつた上本件田地についてはこれを寅男から異議なく返還を受けたものであることを、いずれも認めることができる。成立に争のない甲第一号証第二号証の二は前掲証拠と対比し、又原審証人菅原直二の証言により成立を認める乙第一号証は成立に争のない甲第四号証の二、原審証人菅原直二の証言により成立を認める同号証の一、三及び同証人の証言と対比し、いずれも右認定を左右するに足らない。原審証人杉本昌雄、針生陸郎、原審及び当審証人千葉真一、当審証人鹿野勝治の各証言中右認定に反する部分は採用することができないし他に右認定を左右するに足る証拠はない。

尤も成立に争のない乙第二号証(本件賃貸借解約許可申請書)には前示被控訴人の転貸借の相手方として鹿野勝治の氏名が記載されているけれども、同号証の記載内容と前掲甲第二号証の一、原審証人北条清人、斎藤倫一、杉本昌雄、針生陸郎、原審及び当審証人千葉真一の各証言を綜合すると、右記載は誤記で被控訴人は鹿野寅男を相手方とする趣旨で同人との間の本件田地賃貸借許可申請をしたのであり控訴人においてもその趣旨で前示不許可処分をしたものであることが窺われるのであつて前示採用しない証拠をほかにして他に右認定を覆するに足る証拠はない。

以上によると、被控訴人と鹿野寅男との間の本件田地転貸借は当時施行の農地調整法第九条第二項但書所定の一時賃貸借であることが明であり、右転貸借は寅男の雇傭契約の終了した昭和二十一年十二月二十五日をもつて終了したものであることが認められるかような一時賃貸借については同条第一項の規定の適用がなく従つて同条第三項の適用される余地はないのであるから、控訴人が被控訴人のした前示賃貸借解約許可申請を無用のものとして却下するのは格別これを相当でないとして前示不許可処分をしたのは右法条に違反する違法の処分であることを免れないのであつて、たとえ右処分が当然無効のものであるとしても右処分に対し不服ある者においてなおこれが取消を訴求し得るものといわなければならない。

しかるところ本件田地につき昭和二十二年六月十日買収計画の公告がされ、同年九月五日所有者菅原正規に対し買収の時期を同年七月二日と定めた買収令書が交付され、昭和二十四年二月二十五日鹿野勝治を売渡の相手方とした売渡計画が公告され、同年七月十二日勝治に対し売渡の時期を同年三月二日と定めた売渡通知書が交付されたことは当事者間に争がない。控訴人は、右の結果自作農創設特別措置法第二十二条第一項により本件田地の所有権は昭和二十四年三月二日に遡及して勝治に移転し被控訴人の本件田地に対する菅原正規からの賃借権は消滅したのであるから被控訴人において本件不許可処分の取消を求める利益を有しないと主張する。しかし被控訴人においてさきに本件田地賃貸借解約不許可処分を違法なものとしてその取消を求める本件訴訟を昭和二十三年一月十二日原審に提起したものであることは記録によつて明であるところ、右売渡計画及びこれに基く売渡処分はいずれもその後において右不許可処分の適法有効なことを前提としてされたものであることは本件弁論の全趣旨に徴してこれを認めるに足るばかりでなく、被控訴人はさきに本件農地につき買受の申込をしている者で右売渡処分についてはこれを違法なものとしてその取消の訴を提起し右訴は仙台地方裁判所昭和二十四年(行)第五一号事件として現に繋属中であることは当事者間に争がないところである従つて右売渡計画及びこれに基く売渡処分は、右売渡処分取消の訴の勝敗如何によつてはその取消又は変更を余議なくされることもこれを免れないのであるから右訴の判決確定にいたるまでは未だ確定したものとはいわれないのであり、しかも本件不許可処分が取消されると否とは右訴の勝敗に全く何等の影響を及ぼす虞れがないものともいうことができないのである。かような点からすると、本件田地につきすでに買収手続のみならず前示売渡計画及びこれに基く売渡処分が行われたとしても、被控訴人においてなお本件不許可処分の取消を求める利益を有するものというべきであつて、その利益なきものとする控訴人の主張は採用することができない。

以上により控訴人に対し本件不許可処分の取消を求める被控訴人の本訴請求は正当であつて、これと同趣旨の原判決は相当であり本件控訴は理由がない。よつて民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 中川毅 村木達夫)

(目録省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!